Gurobi Connect 2026 in Fukuoka 講演レポート
福岡で開催された「Gurobi Connect 2026 in Fukuoka」。本記事では、株式会社Gurobi Japan テクニカル アカウント マネジャー 増村優哉氏による講演「グローバルケーススタディーズ」の模様をお届けする。電力、自動車、サプライチェーン、スポーツ──。一見すると接点のない業界で、数理最適化ソルバー「Gurobi」はどのように使われ、どんな成果を生んでいるのか。世界で公開された100以上の事例から厳選されたケースを通じて、最適化が企業の意思決定にもたらすインパクトが語られた。
世界40業界・1,300社超が支持する数理最適化ソルバー
増村氏はまず、自社と製品の概要から講演を始めた。Gurobiは2008年に米国で設立された企業で、もともと別の数理最適化ソルバー「CPLEX」を開発していたメンバーが立ち上げたという経緯を持つ。
数理最適化が活用される業界は幅広い。増村氏によれば、対応業界は40以上、ユーザーはグローバルで1,300社を超える。組織としては約200名規模だが、特徴的なのはその構成だ。全体の4分の1以上にあたる50名以上のメンバーが博士号(Ph.D.)を保持しており、数理最適化やその応用に精通した専門家が、ユーザーの相談に応じる体制を敷いている。
サポート品質への評価も高い。顧客満足度は97%、最高評価である5つ星をつけた顧客は全体の95%、他者への推奨度を測るNPS(ネットプロモータースコア)は71という高水準にあるという。世界を主導するエンタープライズ企業の約8割に利用され、混合整数計画問題(MIP)の求解速度は最初のバージョンから92倍に向上している。「毎年、常に速度改善を続けることで価値を提供し続けている」と増村氏は語る。

同社のミッションは、「最速で、堅牢で、かつ高信頼性のある数理最適化ソフトウェアを活用してもらい、大規模な意思決定を支援する」こと。社員全員がフルリモートで働く一方、年に一度は世界中のメンバーが1カ所に集まり、1週間にわたって製品やサービスを議論するという。増村氏は「特に日本のユーザーの意見やフィードバックを、製品開発やサービス改善につなげていきたい」と、日本市場への期待も口にした。
製品ポートフォリオの中核は数理最適化ソルバーで、現在はバージョン13が提供され、年内にはバージョン14のリリースも見込まれる。加えて、計算サーバー製品「Gurobi Compute Server」や、モデリングを支援する「Modeler」、解の状況を現場に説明する「Explainer」といったAIエージェント機能も展開する。ゲームを通じて数理最適化を学べる「Gurobean」など、人材育成やオープンソースツールの開発にも取り組んでいる。

電力からスポーツまで──世界の現場で「Gurobi」は何を変えたのか
ここから増村氏は、本題であるグローバル事例の紹介に移った。同社のWebサイトには100以上のケーススタディが公開されている。「皆さんの課題のなかにも、どこか引っかかるものがあるはず」と語り、業界の異なる4つの事例を取り上げた。
電力取引──10分の計算を「40秒」に縮めたEneco
オランダ、ベルギー、ドイツを中心に再生可能エネルギー事業を展開するEneco(エネコ)。発電、電力トレーディング、小売、地熱供給などを手がけるなかで、24時間365日、15分ごとに電力取引が行われている。同社は最適な電力配分を計算するために「Gurobi Compute Server」を導入した。
効果は明確だった。従来95%だったシステム稼働率は99.9%まで向上。さらに、10分かかっていた計算を40秒で解けるようになり、リアルタイム性が求められる高頻度の意思決定を支えている。

自動車製造──8人が3週間こもった作業を「数秒」にしたAudi
自動車は部品の仕様が膨大だ。Audi(アウディ)では、ステアリング一つをとっても1仕様で40種類もの部品が存在する。顧客のカスタマイズ要求を満たしながら、どの部品を、どの順番で、どこに配置して組み立てラインへ供給するか──。これは人手にとって極めて重い課題だった。
Gurobi導入前は、8人の計画担当者が約3週間も部屋にこもり、紙の上で工場のレイアウトを設計していたという。それがアプリケーション化により、「ボタンを押せばレイアウトが出てくる」形へと変わり、数秒で意思決定ができるようになった。

サプライチェーン──2,000万変数から「17億変数」へ拡張したSAP
サプライチェーンの制約や状況は近年ますます複雑化している。もともと最適化ソリューションを顧客に提供していたSAPは、Gurobiの採用によって扱える問題の規模を大きく押し広げた。従来は1ユーザーあたり2,000万変数規模で解いていた問題を、17億変数まで拡大。しかも、生産・在庫・物流という安定性が重視される領域で、99%という高い水準で大規模ソリューションを提供し続けているという。

スポーツ──5案から「5万案以上」へ、比較検討の幅を広げたNFL
意外な業界の例として紹介されたのが、米プロアメリカンフットボールリーグのNFLだ。17週・256試合の対戦スケジュールには数兆通りの組み合わせがあり、その作成にGurobiが使われている。
スポーツのスケジューリングは、すべてをシステムだけで決め切れない点に特徴がある。「この組み合わせは面白そうだ」という作成者の主観的な判断が欠かせないからだ。求解速度の向上により、従来は5案程度しか比較できなかったところを、5万案以上のスケジュール候補を比較検討できるようになった。結果として、より納得感があり、観客が楽しめるスケジュールづくりが可能になったという。

100の事例に共通する「4つの壁」
増村氏は、これら4社を含む100以上の事例を見渡したとき、企業が数理最適化にたどり着く背景には、おおむね4つの「壁」(課題)があると整理した。
第一が手作業や従来プロセスの限界だ。作業が長時間化し、業務が属人化して、これまでのやり方を続けられなくなる。第二が規模や複雑度の限界。ビジネスの成長とともに解くべき問題が大きくなり、いつしか時間内に意思決定できなくなる。第三が既存ソルバーの限界で、すでに最適化を導入済みの企業でも、オープンソースや他社の商用ソルバーで解けていた問題が解けなくなるケースだ。増村氏は「日本のお客様の話を伺うなかでも、非常に多いと感じる」と付け加えた。そして第四がリアルタイム処理の限界。限られた時間でどれだけの精度や要件を取り込めるかが問われる局面である。

28億ドルの削減から人命救助まで──最適化が生む経済価値
最適化のインパクトは、金額に換算できる事例も少なくない。増村氏は規模の大きい例として、いくつかの公共セクターの事例を挙げた。
米連邦通信委員会(FCC)は、テレビ用の周波数帯を5Gなどに再利用するオークションでGurobiを活用し、計画の実行可能性を確かめながら大幅な支出削減につなげた。国勢調査員では、国勢調査員の訪問先と経路の最適化に用い、28億ドルの支出削減に貢献したという。
そして増村氏が「金額以外」の価値として紹介したのが、チリ政府の事例だ。新型コロナの検査体制を整えるにあたり、「どこに検査ステーションを配置すれば人口の分布に対して効率的か」という問題にGurobiが使われた。結果として1,000名の人命救助に貢献し、オペレーションズ・リサーチの優れた実用例に贈られるフランツ・エデルマン賞を受賞している。

事例が示す3つの学び──「速さ」は効率化ではなく、意思決定の進化である
講演の最後に、増村氏はこれらの事例から得られる学びを3点に整理した。
ひとつ目は、具体的な課題が出発点になっていること。多くの企業は、目の前に困りごとがあるという明確な動機から数理最適化にたどり着いている。
ふたつ目は、「速度」が意思決定の質そのものを変えることだ。Gurobiの強みは計算速度にあるが、速くなった結果として得られるのは単なる効率化ではない。より多くの候補を検討でき、よりリアルタイムに判断できる──つまり「意思決定の質、頻度、選択肢そのものが広がる」。NFLが5案から5万案へと比較の幅を広げたように、速さは意思決定の地平を押し広げる。
そして三つ目は、最適化の機会はあらゆる業界に存在すること。「思ってもみないような業界の方が、Gurobiで課題を解決している」と増村氏。電力、自動車、サプライチェーン、スポーツ、そして政府機関まで──業界を問わず、意思決定のあるところに最適化の余地がある。そう示して、増村氏は基調講演を締めくくった。


