前回のコラム(「AIで解決できない仕事がある?──実は“数理最適化”が得意な問題とは」)では、「この業務、AIで何とかならないだろうか」と考えたものの、思ったような結果が得られず、どこかモヤモヤが残った経験がある方に向けて、数理最適化というもう一つの選択肢をご紹介しました。
AIはとても強力な道具ですが、「もっともらしい答え」を返す一方で、必ず正しいとは限らないということを、前回のコラムでも解説しました。そこで今回は、制約条件や目的を一つひとつ言葉にしながら、数理最適化によって、あなたのすぐそばにある日常や仕事の悩みを「どう解決を目指すのか」を具体的な事例とともに見ていきます。
この連載では、パン屋の朝の仕込み、営業ルートの設計、シフトの組み方、災害時の物資配送など、誰もが一度は「どうすれば一番いい?」と悩むような現場の問いを出発点に、数理最適化という“考える技術”をやさしくひもといていきます。
「あなたならどうする?」と問いかけるクイズ形式のストーリーと、株式会社Gurobi Japanの最適化コンサルティング シニアマネージャー・乾伸雄氏による丁寧な解説で、最適化の世界を身近に感じてみませんか?答えは、あなたの現場にこそあります。
毎朝、パン屋が悩むこと
朝6時。地元で愛されるベーカリー「パンの樹」では、オーブンのスイッチが入る音とともに一日が始まります。
焼くのは、クロワッサンにあんパン、カレーパン、フルーツデニッシュ……どれも常連のお客様に人気の定番商品です。けれど、ここ最近、小麦粉の価格が高騰。焼けば焼くほど原価がかさむため、「売れ残り」が怖くなってきました。かといって、控えめに作れば今度は「売り切れ」が起きて、せっかく来てくれたお客様をがっかりさせてしまう。
「今日、どのパンを、どれだけ焼けば、いちばん効率よくお店が回るんだろう?」——これは、店長であるあなたの毎朝の悩みです。
あなたなら、どう解く?
では、実際に以下のような条件を踏まえて3択クイズを考えてみましょう。あなたは限られた時間とリソースのなかで、どの組み合わせで焼けば利益を最大化できるでしょうか?
条件:
オーブンは2台まで同時稼働可能
作業員は3人、開店までの準備時間は180分
最低個数指定
クロワッサン:60個
カレーパン:18個
デニッシュ:8個
3種類のパンを検討することにします:
クロワッサン:1個あたり利益100円、焼成時間15分、1台で12個まで同時に焼ける
カレーパン:利益150円、焼成時間25分、1台で6個まで
フルーツデニッシュ:利益200円、焼成時間30分、1台で4個まで
選択肢:
A)クロワッサン108個、カレーパン24個、デニッシュ12個
B)クロワッサン60個、カレーパン30個、デニッシュ20個
C)クロワッサン60個、カレーパン36個、デニッシュ18個
ではここからは、Gurobi Japanの数理最適化コンサルタントの乾伸雄(いぬい・のぶお)氏に解説してもらいましょう。
乾解説:「これは“線形計画法”の出番です」
こんにちは、Gurobi Japanの数理最適化コンサルタント、乾です。
このような問題は、”数理最適化”という手法が用いられます。数理最適化を一言で言えば、「限られた条件(制約)の中で、目的(利益・効率・コスト削減など)を最大限達成するための方法」を数学の力で導き出す技術です。
たとえば、「何を、どれだけ、どう組み合わせるか?」という問いに対して、
どんな選択肢があって、
どんな制約があって、
何を最大(あるいは最小)にしたいのか
を整理し、数式としてモデルに落とし込む。そして、そのモデルをもとに最適な答えを計算で導きます。まさに“賢い判断の仕組み”といえるものです。
今回のケース「限られた時間と資源の中で利益を最大化したい」というときは、線形計画法(Linear Programming, LP)が活躍します。
数式で表すと、このようになります:
変数:
x1a,x1b:オーブンa,b号機でのクロワッサンの焼成回数(1回で12個)
x2a,x2b:オーブンa,b号機でのカレーパンの焼成回数(1回で6個)
x3a,x3b:オーブンa,b号機でのデニッシュの焼成回数(1回で4個)
目的関数(最大化):
利益:100×12×(x1a+x1b) + 150×6*(x2a+x2b) + 200×4×(x3a+x3b)
制約条件:
オーブン台数:同時に2台まで
作業時間合計:オーブン1台ごとに考えることが重要、オーブン2台の合計360分で考えると、オーブン1台あたりで180分を超える場合がある。数理最適化の落とし穴であり、数理最適化の基本的な考え方。(学びポイント)
十分条件:オーブン2台で360分以下
必要条件:オーブン1台で180分以下 これが成り立たない場合がある
(15×x1a + 25×x2a + 30×x3a) ≦ 180,
(15×x1b + 25×x2b + 30×x3b) ≦ 180(分)
※オーブンごとに最大180分まで焼成可能
作業員対応量:作業工数に応じた別途制約
これをもとに計算してみると、最適な組み合わせは…
👉 正解はA)クロワッサン108個、カレーパン24個、デニッシュ12個
理由:焼成回数を最も効率よく活用し、時間と台数の制約内で利益が最大になるパターンです。
問題を解く上で考える“制約”
このベーカリーの悩み、現実はもっと複雑です。というのも、考えなければならない要素がいくつもあるからです:
パンごとの予想売上数
それぞれの原価と利益率
作るのに必要な焼成時間とオーブンの使用時間
同時に稼働できるオーブンの台数(2台)
働ける作業員の人数(3人)
開店までの時間的猶予(3時間)
段取り時間、材料の条件
これまでは、経験豊富な店長が“肌感覚”で、「今日はカレーパン多めにしよう」といった判断をしていたかもしれません。
でも、原材料費の高騰、労働力不足、多品種少量生産といった現代の現場では、感覚に頼るだけではもったいない。むしろ、「数字に基づく判断」ができれば、
人によるばらつきを減らし、
売上と廃棄のバランスをとり、
利益と満足度の両立を図る
ことが可能になります。
最適化の力を、あなたの現場にも
「焼きたてパンの最適な配分なんて、数式で決められるの?」と驚かれたかもしれません。でも、これが“最適化”の力です。
数学というと敬遠されがちですが、数理最適化は、あなたの“直感”を補助する「もう一人の参謀」のような存在。手触りのある問題に対して、冷静かつ効率的な提案をくれる存在なのです。
次回は、物流のラストワンマイルを取り巻く悩みから、巡回セールスマン問題(TSP)の世界を見てみましょう。
お気軽にお問い合わせください
以下の中からお問い合わせしたい内容に最も合うものを選択して、お問い合わせフォームに必要事項をご入力ください。なお、営業目的のメールはご遠慮ください。
製品見積・購入関連
当社製品の価格・オプションについては、こちらより営業チームにご相談ください。
評価版ライセンス関連
当社製品の評価版ライセンスの申請については、こちらよりお申し込みください。
その他
当社製品に関するコンサルティングサービス、ライセンス更新関連、パートナープログラム等については、こちらよりお問い合せください
当社製品に関するサポートは、こちらをご覧ください。
取材やプレス関連お問合せは、marketing-japan@gurobi.com までご連絡ください。

