意思決定の積み重ねが、経営の成果を左右する——そうわかっていても、日々の業務のなかで「感覚」や「惰性」に引きずられた判断をしてしまうことは少なくありません。
本連載では、株式会社Gurobi Japanの最適化コンサルティング シニアマネージャー・乾伸雄氏が、経営の質を高める“パラメータ思考”を、やさしく、実践的に解きほぐします。「何を操作できて、何を前提とすべきか?」という視点を持つだけで、複雑な経営課題も驚くほどシンプルに見えてくる——。全3回を通じて、数理最適化の考え方を、現場と経営をつなぐヒントとしてお届けします。
> 第2回|私たちの生活を支える”数理最適化”5つの事例から学ぶ
> 第3回|“最適”は、いつも足元から始まる
1. 経営の質は「意思決定の質」で決まる
経営とは、判断の連続です。「どこに投資するか」「どこを削るか」「どんな組織体制にするか」——一つひとつの意思決定が、利益や組織文化に影響を与えます。
しかし、意思決定の質に自信を持てている経営者は、実は多くありません。判断を下した理由を問われると、「感覚的にそう思った」「前もこれでうまくいったから」といった言葉が返ってくることも少なくないのです。
複雑な経営課題ほど、どこから手をつければいいかわからず、「全部やる」「なんとなく決める」という選択に陥ってしまう——これはどの企業でも起こり得る現象です。
最近、自分が下した意思決定のなかで、“感覚”に頼ったものはなかったか?
そんな問いかけから、今回のテーマをはじめてみたいと思います。
2. パラメータ思考とは何か?
数理最適化の世界には「パラメータ(parameter)」という概念があります。これは、数式やモデルの中で解決したい問題の状況を特徴付ける要素のこと。
最適な解を見つけるためには、状況を特徴付ける要素”パラメータ”を明確にする必要があります。これは設計の元となる要件仕様と言っても良いです。言わば、「パラメータ思考」とは"目指す目的に対して、コントロール可能な意思決定の要素(=決定変数)と制約条件を明確にする思考法"のことです。
それを踏まえたうえで、"目指す目的に対して、コントロール可能な意思決定の要素(=決定変数)と制約条件を明確にする「モデリング」を行うことで課題を解決するプロセスが、数理最適化の世界でよく用いられる手法です。
この考え方は、経営にもそのまま応用できます。売上、原価、稼働率、人員配置、納期、在庫——一見、絡みあって見える経営課題も何がパラメータとなっているのかを分析することで、経営課題を解決する方法を見つけることができるようになるでしょう。
例えば、良い組織体系の構築を考えた時には、各部門を特徴づけ、人数や配置する人の特徴などがパラメータの一部になるでしょう。もちろん、これだけではありませんが。このような事柄を数値で表現することがパラメータ思考においては重要で、現状を分析して、将来のあるべき姿を考えていくことにつながります。
もっと具体的な例を考えてみましょう。「利益を上げたい」と思ったときに、
売上を伸ばす
コストを下げる
生産性を上げる
利益率の高い商品にシフトする
など、さまざまな指標が浮かびます。
これらの指標を分析すると指標ごとに考慮すべきパラメータがわかってきます。指標間で共通のパラメータが現れたりすることもあるでしょう。共通のパラメータを持つ指標は同時に考えるべきものであり、持たないものは独立に考えても良いという分析ができます。
3. なぜ「切り分け」ができないのか
とはいえ、実際の経営現場で「パラメータを考えましょう」と言っても、すぐに実践できるわけではありません。なぜなら、経営状況を見た時はどのようなパラメータが影響しているのかを考えることは少なく、私たちは常に過去の成功体験や組織の慣性に引っ張られているからです。たとえば、
「この施策は前にうまくいったから、今回も同じでいいだろう」
「他部署にも配慮して、つい全部やってしまう」
「問題の本質よりも、目の前の人間関係を優先して動いてしまう」
——これらはすべて、“意思決定が感情や習慣に引きずられている状態”です。
また、現場の実情を正しく把握できていないことも大きな要因です。たとえば、生産計画を立てるのは経営層、実行するのは現場であり、両者のコミュニケーションが断絶しているケースは多く見られます。「無謀な計画でも、現場が合わせにいってしまう」ことで、経営者が判断ミスに気づけないこともあります。
「やるべきことの見える化と、やらないことの線引きがセットでなければ、経営は最適化されない」
まさに、切り分けとは「優先順位」と「手放す判断」を明確にする技術なのです。
4. パラメータ思考で、経営判断はこう変わる
パラメータ思考は、いわば「判断の地図」を持つことです。
「この意思決定は、何を最適化したいのか?」
「何が意思決定に使うパラメータなのだろうか?」
「関係が深いパラメータはどのくらい変更できるものだろうか?」
この問いを一つ入れるだけで、意思決定の質は格段に上がります。たとえば、
マーケティング施策のA/Bテスト → 最適化すべき目的関数(KPI)は「クリック率」なのか「コンバージョン率」なのか?
生産ラインの構成 → 「稼働率」か「切替回数の最小化」か?
採用戦略 → 「応募数」か「採用後の定着率」か?
判断の軸を明確にすることは、「何を捨てるか」を決めることでもあります。最適化ソルバーGurobiの公式サイトでも、最初のステップとして次のように記されています。
「複雑な制約条件の中で、何を最適化すべきかを定義することが重要です。」
まさにパラメータ思考の核心部分です。
5. 判断を構造化することで、惰性から抜け出す
経営者が1日に下せる重要な意思決定の数は、おそらく10個前後が限界だと言われています。であればこそ、「ルーティンで繰り返される判断」や「感情に引きずられがちな判断」は、あらかじめ構造化しておくべきです。
意思決定のルール化、選択肢の優先順位付け、他の人に委ねる基準をつくる——これらを整備することで、大事な判断にこそ集中できる状態が生まれます。
パラメータ思考とは、”惰性からの解放”です。これはつまり、「経営者自身の自由を取り戻す技術」とも言えるでしょう。
6. 経営に“最適解”を導くための第一歩
こうした話を聞くと、「うちもGurobiのような最適化ソルバーをすぐに導入すべきなのだろうか」と感じる方もいるかもしれません。けれど、私たちが本当に伝えたいのは、 「Gurobiを使う前にできることが、たくさんある」ということです。
自社の意思決定において、“必要なパラメータはなんであろうか?
判断が属人的になっている領域はどこか?
「思いつき」や「前例」ではなく、構造的に判断できるようにするにはどうすればいいか?
これらは、明日からでも取り組める最適化の第一歩です。
そして次回は、実際にこの「パラメータ思考」と「Gurobi」を活用した例を見てみましょう。数理最適化の思考が実際の企業でどのように経営判断に活かされているのかを、複数の事例を通してひもといていきます。 “最適化”が、経営の現場にどう根づいていったのか——ぜひ楽しみにしていてください。
“すべてをコントロールすることはできなくても、“変えられるもの”に丁寧に向き合う。そこから経営の質は変わり始めます。” |
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